最先端のAI研究を資産運用の実務に役立て、世界に成果を発信する。
中川 慧KEI NAKAGAWA
資産運用先端技術研究部
(イノベーション・ラボ)
クオンツアナリスト
社内制度を利用して大学院で学び、AI/機械学習の金融ビジネスへの応用研究で経営学博士号を取得した中川。現在はファンド運用の実務にAIを活用するため、さまざまなプロジェクトを主導する。また、AIを活用した資産運用の価値を世界に発信することにも積極的に取り組む。すでに研究論文は米国の最難関のAI関連の国際会議などで評価され、発表の機会を獲得してきた。
金融×AIという分野は、
可能性に満ちている
さまざまな業界でAIをビジネスに活用する試みが進んでいます。ところが、金融業界ではまだ先駆けとなるような事例は存在せず、AIによる機械学習を資産運用に本格的に応用する取り組みは、現時点では未開拓といえる段階にあります。
このような状況は大きなチャンスでもあります。少子高齢化が進む日本では、老後資金が不足するなどの問題が浮上し、多くの生活者が計画的な資産の運用を必要としています。今、日本の資産運用ビジネスでAI活用の価値を高めれば、この分野で世界をリードすることも可能なのです。私は大学で金融工学を学び、資産運用業界でAIの応用研究とビジネスの接点に身を置いてキャリアを積み重ねてきました。そして、最短距離で世界的な成果を目指せる場所を求めて、野村アセットマネジメントに入社しました。
野村グループは日本で初めてクオンツ運用を始めたパイオニアであり、当社にはデータを数理的に分析・活用するナレッジが豊富に蓄積されています。人のリソースも厚く、調査部門や運用部門には資産運用ビジネスを知り尽くしたプロが多数在籍しています。さらに、先端技術を資産運用に本格的に活用することを目的とする研究開発部門「イノベーション・ラボ」も誕生。この会社であれば、最先端のAI研究を金融ビジネスに応用することが高い水準で可能だと考えたのです。
社内各部門のプロとの議論から、
新たな挑戦のテーマが見えてくる
私は現在、AIの機械学習の技術をファンドの運用に活用するため、複数のプロジェクトを主導しています。例えば、当社ではすでに一部のクオンツファンドでAI運用を導入していますが、このAIモデルに説明責任を果たす機能を付与しました。これまで、AIによる投資判断は基本的にブラックボックスでした。しかし、お客様から資金をお預かりしてファンドを運用する以上、なぜこの銘柄に投資すべきと判断したのか、一定の説明責任を果たす必要があります。そこで、AIの判断基準をお客様に対して示す技術を新たに開発したのです。
また、調査部門のアナリストの業務効率化にもAIを活用しています。公開会社である株式会社が株主総会を開催するにあたって株主に送付が義務付けられている株主招集通知という文書には、企業概要や株主の状況、決議事項である議案などさまざまな情報が記載されています。その中から経験豊富なアナリストはどのような部分に着目するのかをAIに学習させ、自然言語処理で重要パートを自動的に抽出し、人が大量のテキストを読む負荷を軽減。将来的には、アナリストの「企業価値評価」という高度な判断も一部AIに担わせることが可能になると考えています。
これらはいずれも社内各部門のプロフェッショナルとの議論から実現した、現在進行形のAIの応用事例です。このように社内部門を横断したコミュニケーションを通じて、新たに興味深い研究テーマが見えてくることがよくあります。
運用にもっとAIを活用するため、
新しい仲間づくりが重要に
野村アセットマネジメントでは、先端的な研究と運用実務の距離が近く、学術的な貢献とビジネス上の貢献が両立できる点が大きな魅力となっています。運用部のポートフォリオマネージャーからは、日々「AIを使ってこんなことが解決できないか?」といった課題が提示され、これに対してさまざまな議論を重ねながらモデルを構築しています。そして、実際に運用業務にモデルを使用してもらい、現場からフィードバックを受け、改善を重ねてモデルの精度を高めていきます。現場から示されるのは非常に難易度の高い課題ばかりですが、運用のプロはあくまで品質を重視していますので、双方が納得できるまでモデルをつくり込むことができます。
また、内外の大学をはじめ、AIの深層学習に関する先進的な技術を持つ企業や、伝統的な財務データとは異なるオルタナティブデータの活用に長けた企業などと共同で、さまざまな基礎研究を進めています。そこから得たいくつかの知見はすでに論文として発表もしています。AIの技術は進化のスピードが速いため、常に世界の最新の知見をキャッチアップするとともに、自分たちの知見も論文として世界に発信し続けることが重要です。
今後さらに資産運用におけるAI活用を進め、世界に認められる成果を挙げるために、運用についての知見と、AIに関する知見をより高度に融合する必要があります。社内での協働を通じて、このミッションをともに推進してくれる優秀な仲間を増やしたいと思っています。